12日間滞在したメキシコチアパス州の小さな町、サン・クリストバルデ・ラス・カサスを出発し、
今朝、シャトルバスでグアテマラのアンティグアへ向かっていた。
国境に到着したら入国手続きをしてシャトルバスをチェンジ。
そこで我々が乗るべきアンティグア行きのシャトルバスを探したのだが、
なぜかそのようなシャトルバスは全く見つからない。
すると原因はまだわからないが、
とりあえず今日はもうアンティグアへは行けないことが発覚。
アティトラン湖周辺の町パナハッチェルへ向かうことを余儀なくされた。
しかし運転手が言うには、
今夜のパナハッチェルでの宿泊代と明日のアンティグア行きのシャトルバス料金は無料になるという。
それなら、すでに1度訪れているアンティグアには特に用事はないので、まだ訪れたことのないパナハッチェルに滞在できるというのはかえって好都合かもしれない。
この嬉しい予想外の展開に心を躍らせ、我々はパナハッチェル行きのシャトルバスに乗り込んだ。
(1ケツァール=約15円 2016年12月22日。)
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15時20分。
グアテマラ側での初めての休憩。
ここで今朝休憩所でお会いしたメキシコ在住の日本人女性の方にまた会ったので、国境で起こったトラブルについて話してみた。
すると、
『そんな話今まで聞いたことない。もう一回運転手に事情を説明してもらったほうがいいよ。ちょっと私聞いてみようか?』
とのことだったので、運転手を捕まえて直接事情を説明してもらった。
先ほどはスペイン語ができるアメリカ人が運転手から聞いた情報を、我々そのアメリカ人から英語で聞く、といった具合で、運転手と一問一答していたわけではないからな。
メキシコに15年住んでいるという彼女はもちろんスペイン語が堪能。
先ほどのアメリカ人と違い、我々の耳に入ってくる情報が日本語なので通訳の精度は上がり複雑な質問もでき、より詳細な情報を正確に知ることができる。
なんとか運転手を捕まえ事情説明をしてもらう。
運転手曰く、
『メキシコ側のバスが遅れたから国境で待機していたアンティグア行きのバスに乗り遅れた。』とのことだった。
念のため今夜の宿と明日のアンティグア行きのバスが無料になることも確認してみる。
すると、
『明日のバスは無料になるが、今夜の宿は無料にはならず自力で宿を探し自腹を切らなければならない。』と言う。
おいおい、さっきのアメリカ人は『宿とバスは無料なんだね?』と言う質問に対して『イエス。』と確かに言ったぞ。情報が違うじゃねぇか。。
しかし、日本人通訳を介して直接ドライバーとコミュニケーションをとっている今の情報のほうが確かなのは言うまでもない。
そうなってくると、我々ものんきにパナハッチェル行きを喜んではいられない。
『こっちはアンティグアの宿をすでに予約してあるんだ。バス側のミスだったらそのキャンセル料ぐらいは負担してもらわなきゃ困るよ。』
我々はそう主張したが、運転手はというと、
『これはメキシコ側のバスのミスだ。グアテマラ側のドライバーである私は悪くない。』と一点張り。
確かにその通りかもしれないが、その投げやりな態度は非常に不愉快なもので我々一同完全に呆れかえった。
せめて自分のバス会社のオフィスに連絡するなりして何かしらの対応をとって欲しかったのに。
まぁ、ここは日本ではなくメキシコ。
日本で当たり前のことは大抵ここでは当たり前じゃない。
そのようなぶっきらぼうな態度をとらる方がここでは当たり前なのかもな。
19時過ぎ。
ようやくパナハッチェルに到着。
バスを降りると、すぐにバス会社の者と思われるおっちゃんが『アンティグア?』と聞いてきた。
『そうだ。』と私は返事をした。
彼は英語を話せたので、比較的スムーズにこれからのことを話し合えた。
とりあえず、
今夜はここパナハッチェルで1泊すること。
1人1泊40ケツァール(約600円)の安宿を紹介してくれること。
明日朝9時30分のシャトルバスでアンティグアへ向かうこと。
この重要な3点がこの場で決定した。
(シャトルバスの時間は5時、9時30分、12時、16時から選べた。)
するとそのおっちゃんはどこかへ行き、また別の男が現れた。
その男も英語が喋れたので、私は先ほどのおっちゃんと話したことを一応この男とも確認しておく。
すると、今度はこの男がまた別の男を我々に紹介し、その人がその安宿まで案内すると言ってその場を離れた。
なんなんだこの逆たらい回し状態は。
細い人通りの少ない道を歩き、最後に現れた男は我々を先導する。
道の角にあった1件のホステルに入り、男はそこの奥さんに何か言っている。
するとすぐにそのホステルを出て、別の場所めざして歩き出す。
そしてすぐ近くにあった2件めのホステルのチャイムを鳴らし中へ。
今度はここで間違いないっぽい。
さっきのは1件目は満室だと断られたのか?
ホテルの客引きって、いつもそんな突撃的な感じで宿を紹介しているのか?
改めて、今夜の宿はおそらく『Hospedaje San Miguelito』というところ。
門の上に書いてあるのは『歓迎』という意味。
門の隣に書いてあるのは『オープン』という意味なので、これらは宿名ではない。
このすぐ隣の壁に『Hospedaje San Miguelito』と書いてあったし、
紹介してくれた男も『サンミゲル』的なことを言っていたのでそれが宿名と推測する。
悪くない雰囲気。
部屋は個室。
ベッドと小さな棚が置いてあるだけのシンプルな作り。
なかなか清潔感もある。
これで1泊1人40ケツァール(約600円)なら悪くない。
ちなみに朝食はついていない。
19時30分。
部屋に入り無料のWi-Fiをつなげたら、まずアンティグアのペンション田代に電話して今日はアンティグアに到着できないことを伝えた。
田代さんとしても、他の予約を断って我々の予約を確保しているため今夜分の宿泊料金はどうしても発生してしまう、という。
そうだよなぁ。。田代さんの言い分もわかる。しょうがない。
ちなみに写真は先ほどシャトルバスを降りた時にもらった明日のアンティグア行きのチケット。
20時10分。とりあえず街に繰り出す。
メイン通りに出て、先ほどシャトルバスを降りた所の目の前にあるバス会社に差し掛かった時、ふとペンション田代の1泊分のキャンセル料についてダメ元で相談してみようと思い立った。
中には一人の女性スタッフと先ほどのおっちゃんがいた。
どうやらこのおっちゃんがこの旅行会社の長のようだ。
私は、
『シャトルバスの遅延のせいで今夜予約していたアンティグアの宿に泊まれなくなり、1泊分のキャンセル料が発生してしまった。』
ということを伝え、
このお金はなんとかならないかと相談してみた。(もちろんなるべく謙虚な態度で)
するとおっちゃんはまず、
『そのキャンセル料はいくらだったのか?』と問うてきた。
私は『2人で110ケツァール(約1650円)だ。』と答えた。
するとおっちゃんは、
『それは気の毒なことだが、これはメキシコ側のシャトルバスの遅延なので我々の責任ではないのだよ。
我々も今日君たちが到着するのを国境で待っていたんだが、時間通りに来なかったのでやむおえず出発したんだ。
そして明日の朝のシャトルバスは実はうちのものではなく、他の旅行会社のものなんだ。
君らが支払ってくれた今日の分のシャトルバスのお金を使って明日のシャトルバス代を立て替えているから明日の分は無料で提供できるのだが。。』
と、宿の払い戻しはできないことを少し長めに、そして丁寧に説明してくれた。
(昼間の運転手もこのくらいの態度で説明してくれれば印象がだいぶ違うのに。)
”やっぱりダメか。”
そう思って私が別れを切り出そうとすると、おっちゃんはまだ話を続けた。
『ただ、明日の16時まで待ってくれたら私が君たちをアンティグアまで車で送っていくよ。
そして宿のキャンセル料全額とまではいかないが、75ケツァール(約1125円)を支払おう。』
と提案してきた。
”75ケツァールってどっから出てきた数字なんだだ?宿代は110ケツだし、バス代にしても安すぎる。”
(ちなみにアンティグアまでのバス代は1人500ペソ(約2800円)だった。)
そう思った私は『75?』と聞き返した。
『そうだ。明日16時に私と一緒に行くならキャンセル料の110ケツァールのうち75ケツァールを返金しよう。』
私は内心75の額の意味が全く理解できずにいたが、0だと思っていた払い戻しが急に75になったことの驚きと感謝のあまり、その数字の真の理由を問うことにためらいを感じてしまっていた。
『ちなみに、なんっていうホテルに泊まるんだい?』
私が言葉に詰まっているとおっちゃんはそう問うてきた。
『ペンション田代です。知ってますか?』
『もちろんだよ!』
と、おっちゃんとその場にいた若い女性スタッフはニコニコと笑いだした。
さすがはグアテマラを代表する日本人宿、ペンション田代。知名度が半端ない。
先ほど朝9時30分のシャトルバスを選んだ理由は、
アンティグアでちょっと行ってみたい店があり、そこで日本の友達へのおみやげを買いたいな、と思っていたからである。
でも16時のシャトルバスにすれば、明日1日パナハッチェル観光ができ、さらに75ケツァールの現金が付いてくる。
それはそれで悪くない。
少し考えた結果、
明日は1日パナハッチェル観光をして、16時におっちゃんとともにアンティグアへ行き75ケツァールを受け取ることに決めた。
自分らの責任ではないのにそこまでしてくれたおっちゃんの優しさに少し感動した私は、
最後におっちゃんと固い握手を交わし、笑顔で『また明日。』といってこのバス会社のオフィスを出た。
何事も、相談してみるもんだな。
20時30分。
その後は雑貨屋さんを見たりしてメインストリートを歩きながら、先ほどのやり取りについて相方と話していた。
そうして喋っていると、先ほどのおっちゃんのビジネスマンとしての頭の良さにようやく気づかされることになる。
よく考えたら、
おっちゃんらは明日の我々分のシャトルバス料金を他の旅行会社に支払っていたので、もうけは微々たるもの、もしくは0の可能性が高い。
そこでおっちゃんは我々を自分のところの顧客に戻すため、75ケツァール支払うから16時に一緒に行こうと提案してきたのだ。
他の旅行会社に客を持っていかれもうけを0にするより、
75ケツァール我々に渡してでも客を獲得した方がマシなのだろう。
75という中途半端な数字は、おっちゃん側の損得を計算した上で瞬時にはじき出された数字だったのだろう。
おっちゃんの腰の低さと優しさに私は完全にやられていたが、
あの時おっちゃんの頭の中はフル回転していて、いろいろ考えた結果そのようなことを提案してきたに違いない。
あのとっさの状況で、なんと頭のキレる人だろうか。
これぞ商売人というのを見せつけられた。
我々は決してぼられたわけではない。
75ケツァール返ってくるし、旅行会社はもうけを出せるし、
これはお互いにとってウィンウィンの関係になれる取引だったのだ。
それでもどこか心がスッキリしないのは、私がおっちゃんのそのような考えに全く気付けなかったことが原因だろう。
損をしているわけではないのに、まんまとやられた感が残る。
もしこれが詐欺やぼったくりだったら完全にやられていた。
21時ごろ宿に戻った後も、しばらくおっちゃんの頭の良さに対するなんとも言えない悔しさのような感情が湧き続けていた。
もちろん、おっちゃんを憎んでいるわけではない。
むしろ我々のことを思った提案をしてくれたことには未だに感謝感激している。
その中に少量の悔しさが混じっている感じ。
とにかく、この件でおっちゃんの賢さから学んだものは多い。
ありがとう、おっちゃん。
そんなことをぐるぐると考えながら、0時前には就寝した。
明日は16時にパナハッチェル発のシャトルバスになったので、朝はのんびりできる。
まさかの展開ですることになったパナハッチェル観光を存分に楽しみたいと思う。
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